食の起源 第5集「美食」 人類の果てなき欲望▽まとめ感想

NHK総合2月23日(日)午後 9時00分~

健康を害してまで「おいしいもの」を欲してしまう人間。
なぜ「生きるため」だけでなく「おいしさを楽しむ」ために食べたくなる“美食モンスター”のような生き物になってしまったのか?
進化の歴史をさかのぼると、人類が生き延びるために獲得した「おいしさを感じる3つの特殊能力」があることが分かってきた!

第1の特殊能力:「苦味」を「おいしさ」と結びつけて記憶する能力

美食と深く関係する特別な味とは?
スタジオにセンブリ茶が出てきました。「苦味」です。
苦味と美食に一体どのような関係があるのだろうか?

それを教えてくれるのが、 アメリカ シアトルの高級レストランで、ワインソムリエを務めるエイプリル・ポーグさんだ。
エイプリルさんは生まれつき「味のわずかな違い」にとても敏感な舌を持っており、その優れたワイン鑑定能力は、ソムリエ業界で表彰されるほどの折り紙付き。
エイプリルさんの舌は普通の人と何が違うのか?
唾液を採取して「遺伝子」を調べると、「苦味を敏感に感じる遺伝子」を持っていた。
じつはこの「苦味遺伝子」、人類の進化と深い関係があるのだ。

「人類と共通の祖先を持つチンパンジーも、苦味遺伝子を持つものと、持たないものがいることが、分かっている。
わざと「苦い味」をつけたリンゴを与えると、「苦味遺伝子」を持たないチンパンジーは、平気で食べられた。一方、「苦味遺伝子」を持つチンパンジーは、リンゴを口にしたとたん、顔をしかめて吐き出してしまった。

多くの植物は動物に食べられないように、葉などに毒性のある苦味物質を蓄えている。
多く食べると危険なため、敏感に「毒の苦味」を察知して排除する仕組みが、祖先の体に備わったと考えられるのだ。
私たちの舌にも苦味物質を感じるセンサーがあり、毒性のある物質が口に入ると、脳の「味覚野」という場所で「苦い味」と認識される。
反射的に「食べるな」と指示を出して毒を排除する。

およそ700万年前の人類誕生以来、私たちの祖先はアフリカ大陸で暮らしてきた。
およそ6万年前、地球規模の気候変動で寒冷化が起き、食べ物が乏しい時代が訪れる。
そこで人類の祖先は、食べ物を求めて移動。
今まで排除していた、苦みのあるものから、栄養のある食材を発見、生存のチャンスを高めていった。
そうした経験の積み重ねが、苦味を「積極的に食べたくなる味」として記憶していくことに。
脳の前頭葉にある情報司令部(眼窩前頭皮質呼ばれる場所)が、苦味の情報と過去に食べた味の記憶とを結びつける。
「苦味」を「おいしさ」と結びつけて記憶する能力が、人類が手にした「美食につながる“第1の特殊能力”」。
これは他の動物にはない能力だと、京都大学霊長類研究所の今井啓雄教授は語る。

スタジオで、田楽豆腐、みたらし団子、イワシの水煮を試食。「おいしい」
コーヒーを煮詰めた苦みソースをちょっとかけて、「なお、おいしい。深みが出た。」

第2の特殊能力:「味」より「風味」こそがおいしさだ!

「ニューヨークのカフェで働くリア・ホーゼルさんは、おいしい物が大好きで、新しい食事メニューの開発も任されるほどだった。ところが3年前、「『おいしさ』をまったく感じなくなってしまったんです。病院で診察を受けたところ、「無嗅覚症」で、匂いを感じられなかった。
風邪などで鼻が詰まると、食べ物を味気なく感じる。味覚とは直接関係ない嗅覚が働かないだけで、なぜ私たちはおいしさを感じられなくなってしまうのか

世界的な進化学者のダニエル・リーバーマン博士。嗅覚とおいしさを結びつけるカギは、祖先の「顔の形」の進化にあると言う。
恐竜時代、私たちの祖先は、鼻面が長い、ネズミのような小動物で、天敵から逃れて闇夜の中で鋭い嗅覚を頼りに生きる、「夜行性」だった。
およそ6,600万年前、地球に巨大な隕石が衝突して恐竜が絶滅すると、生き残った私たちの祖先は昼間の世界へ、「嗅覚」よりも「目」を武器に生きるように進化した。
注目すべきは、「祖先の顔の骨格」に起きた大変化だ。
夜行性だったころは、匂いを感じやすいように、鼻面が長く、口と鼻の間は板状の骨で隔てられていた。
しかし、目を使って活動すると、口と鼻を隔てる板状の骨もなくなり、口から喉、鼻にかけて「ひとつながり」になった。
この「ひとつながりの構造」が、人類を「美食モンスター」に変える「第2の特殊能力」を目覚めさせたたと考えるのが、ゴードン・シェファード博士だ。

味を感じる舌の味覚センサーはおよそ100万個なのに対して、嗅覚センサーは1,000万個。「香り成分の情報」が、脳の「情報司令部」に押し寄せる。
その結果、味よりも 匂いでおいしさと強く結びつけて記憶する」ようになった。

舌で感じる“味”より嗅覚で感じる“風味”こそがおいしさ」だと感じる「第2の特殊能力」を、顔の形の大変化に伴う思わぬ副産物として手に入れた人類。
およそ200万年前に、祖先が「火で調理をし始めた」のだ。
火で加熱された食材からは、さまざまな香り成分が、さらにふんだんに立ち上るようになり、それを食べると、口から鼻の内部にかけては、風味の洪水のような状態になり、激しく脳を刺激するようになった。

風味の威力を中華料理で体験。
スタジオにチャーハンが配られました。「おいしい。」
焦がしたしょう油を加えたチャーハン。「すごくいい香り。おいしい 別物。」

・第3の特殊能力:「みんなと分かち合う」ものこそが“美食”に!

じつは最新研究で、私たち人間には味覚でも嗅覚でも説明のつかない、「第3の特殊能力」が備わっていることが分かってきた。その能力には、「健康的な食事をおいしいと感じさせる」不思議なパワーがあるというのだ。

おもしろい実験を行った。20~40代の男女30人をAとBの2グループに分けて、それぞれ同じ料理を食べてもらった。
用意したのは、「ゴボウをすりおろして作ったスープ」と、「薄切りのキュウリと大根をパスタ代わりに使ったペペロンチーノ」。いかにも健康に良さそうな創作料理だ。

まずはAグループの感想。
「うーん、味がない、薄い。」
「一口、二口、薬的な感じでしかいただけなかったですね。」

一方、Bグループの人たちは…
「食べたときに、シャキッとしてて、後味がよかった。」
「すごくおいしくて、なんか優しい味だなって思って。もっとあったら飲みたい。」

食べた料理はまったく同じなのに、2グループの感想がまるで違う。なぜなのか?

じつは食べる前に伝えた“料理の名前”が違っていたのだ。
Aグループに伝えた2品の料理名は、「低脂肪ゴボウ健康スープ」「パスタ風ズッキーニと大根の炒め物」など、味気ない言葉が並ぶ料理名だ。
Bグループに伝えたのは、「鳴門鯛のダシたっぷりポタージュ」、「モチシャキ2食麵の創作ペペロンチーノ」など、おいしさを際立たせる言葉が入った料理名だ。
伝えられた料理の名前が「おいしそう」な印象のものになっただけで、食事に満足する人の割合が60%から87%に上昇するという、驚きの結果に。私たちには、「自分の舌や嗅覚で直接感じるおいしさ」よりも、「人から与えられる情報で感じるおいしさ」の方を強く感じるという、「第3の特殊能力」が備わっているのだ。

仲間への共感能力」が人類の“究極のおいしさ”を生む!
先ほどのチンパンジーの実験の続きです。仲間が食べているのを見て、 「苦味遺伝子」を持つチンパンジーも、リンゴを食べ始めた。

「初期人類」の脳と比べて、世界中に進出して行った祖先は、脳の「前頭葉」が大きく発達したことが突き止められたのだ。
その大きくなった前頭葉に存在するのが、「仲間への共感」を生み出す脳の中枢(腹内側前頭前野)。

仲間が新しい食材を見つけて、おいしそうに食べているのを見ると、「共感の中枢」が反応。
すると脳の「情報司令部」は「仲間が食べているものは自分も食べる価値がある」と判断し、その食べ物を「おいしいもの」として記憶するようになった。
これこそが、人類が手に入れた「第3の特殊能力」である。

人類の祖先は他の動物に比べると非常に弱い生き物で、自分と違う味覚を持った仲間と“同じ食べ物を共有していく”ことが重要だったと思われます。
おいしさを共有する、あるいはそれを拡散していくということは、非常に重要な人類の特徴であると思われます。」(今井教授)

おいしそうな料理の名前や、口コミでの「おいしい」という他者の評価など、おいしさを感じさせるさまざまな情報を共有して、美食を追い求めるまでになっている。
みんなと共有するおいしさは、人類が常に仲間と共に食を開拓し、分かち合って生き抜いてきたという証しなのだ。
人によっておいしいと感じるものが異なるのは、「これまでその人が、誰とどんな食を共有してきたか」という経験が異なるためだと、脳とおいしさ感覚について研究する東北大学大学院教授・坂井信之さんは語る。

おいしいと思うもの
松岡さん パクチー、城島さん くさや、長瀬さん トンカツ、
木村文乃さん ラーメン、国分さん 母親のギョウザ、

食との“健康的な関係”を取り戻すことはできるのか?
人類が長い進化の歴史の中で獲得してきた、人類特有の「美食の特殊能力」。それを活かして、私たちは食との健康的な関係を取り戻せるのだろうか?

北欧 フィンランドでは、子どもたちの偏った食生活を改善しようと、「おいしさの記憶」に着目したユニークな取り組みを始めている。
子どもたちに、体の五感をフルに働かせていろいろな食材に自由に触れさせる。たとえば、目隠しをして、匂いだけで食べ物が何か当てさせたり、色も形もさまざまな野菜などで好きなように遊ばせたり。
みんなで森の中に行って、食べられる物を探すゲームを楽しんだりもする。
こうして「楽しい食の記憶」を育むだけで、野菜嫌いだった子どもたちがいろいろな食材に興味を抱き、おいしく食べ始めるという、興味深い成果が上がっている。

▽まとめ&感想

長い長い人類の進化の過程で、私たちの祖先はさまざまに姿形を変えながら、生きるために必要な食べ物を懸命に見つけだし、仲間と分かち合うことで、共に命をつないできた。
「食」とはまさに人間が人間になれた理由そのものだ。
そして今、私たちの「食」は単なる栄養摂取ではなく、人を幸せにし、人と人を結ぶ絆にまでなっている。

理想の食」とは何か?その問いの答えは、ただ「何を食べるべきか」ではなく、「人間にとって食とは何か」を知る先に見えてくるはずだ。
あなたの食は、きっともっとおいしくなる。もっと幸せになる。

人類が生き延びるために獲得した「おいしさを感じる3つの特殊能力」 「苦味」を「おいしさ」と結びつけて記憶する。「味」より「風味」こそがおいしさ。 仲間が食べているものは自分も食べる価値がある」と判断し、その食べ物を「おいしいもの」として記憶する

とても、興味深い話がたくさん聞けました。面白かったです。
生きるために、苦いものを食べ、美味しく感じたとか、
味も、風味も一緒になってのおいしさで、確かに、鼻づまりでは美味しくなかった。
料理の名前で、おいしさの感じ方が全然違うって、そんなことあるんですね。
孫達にも、「楽しい食の記憶」いっぱい与えたいな。