Eテレ 2023.3.24
コロナ禍で増えているといわれる「うつ病」きっかけや、あらわれる症状。3割は難治性うつといわれています。その人の持っている回復力をいかに生かしていくかがポイント!うつ病から回復した人に聞いてもらい楽に!過保護 過干渉 過関心を止める!知行動療法で自分の考え方見直す
【ゲスト】安藤和津 【講師】慶應義塾大学医学部教授 三村將
【司会】賀来千香子,小澤康喬【語り】堀内賢雄
うつは どのように始まり どのように症状が現れるか
コロナ禍では 孤独や先行きへの不安から心を病む人が増えています。
厚生労働省による そううつ病を含む気分障害の外来患者数、平成14年からの16年の間におよそ1.8倍に増加しています。
(安藤和津)実は母の介護をきっかけに かなり肉体的・精神的な疲労がたまってしまって 介護うつになって、そのあと母を見送ったあとに燃え尽き症候群というか目的を失ってしまって…。13年かかったんですよ 治るまでに。結構大変でした。やっと4年前に抜けたんです。今バリバリ元気ですもん。
■10年間 うつ病に苦しんだ男性
横浜市で愛犬と暮らす砂田康雄さん・くにえさん夫婦。康雄さんは40代でうつ病を発症。長い間 苦しんできました。
うつ病の始まりは41歳の時。職場で 「回りは楽しいはずなのに 自分だけ楽しめない。笑えない」といつもと違う自分に気付いたことでした。当時勤めていた広告会社の業績が悪化し 資産整理を任され 生真面目で完璧主義だった康雄さんは 連日遅くまで仕事に追われます。
ある朝 妻のくにえさんが、毎朝 締めるネクタイが 何回やってもうまく結べないことに気づき 精神科を受診したところ 過労によるうつ病と診断されました。医師に「そのうち治る」と言われ 抗うつ剤を処方されます。
まもなく会社は倒産、 仕事を失った康雄さんは家で療養することになります。数か月で回復すると思っていましたが 1年が過ぎても症状は悪化するばかりで だるくて 不安と焦りがありました。
収入を得る暮らしに戻りたいと 無理を押して再就職します。しかし1年も たたないうちに仕事中に倒れ 病院に担ぎ込まれ 会社を辞めることになりました。この時から ほぼ寝たきりの生活が5年間(43~48歳)続きます。
「夜眠れなかった。睡眠薬いくら出してもらっても 替えてもらっても 量を増やしてもらっても 朝まで寝られなかったので、昼は 頭がもうろうとして ペットに横になっていた」
カウンセリングも試みても 効果は感じられなかったといいます。生活費や治療費はくにえさんの給料で賄っていました。康雄さんの両親からも 金銭的な支援を受けていました。2人は先行きが見えず苦しさだけが重くのし かかる毎日で よく激しい夫婦げんかをしました。
康雄さんは次第に自殺について考え始めます。自殺に対するハードルが下がって 実行するつもりになり 仕事中のくにえさんに「たいへん世話になりました」とメールを送ります。
くにえさんは引き留めるため「3匹の犬がいて この子達が旅立つまで 一緒に育てるといったよね」と思いついて打った。
康雄さんは ふと何かワンちゃんの意識がよぎって 思い浮かんできた。ちょっと意識が変わり 家に帰りました。しかし家に戻っても日々の現実は変わりませんでした。もう半分 回復するのを 諦めてました。
(安藤)すごく気持ち分かります。私が料理できなくなった。日常的にやってたことが できなくなり、本当に自分で もどかしいんですよね。
(賀来)たぶんその間 番組に出て頂いて私は全く気付かず そんなふうにお見受けしなかった。
(安藤)そう。着ぐるみを着てて 前の私だったら こういう時にどう反応したんだろうと 1〜2秒あとに 切り替えて演じるんですよね。いつもと同じ自分でいなきゃいけないという気が張ってたのかな。そのかわり 夜がだめで 1人になった時の時間。ちょっとブラックホールのような時間帯でした。
3割ぐらいは難治性うつで その人の回復力をいかに生かしていくかがポイント
専門家の慶應義塾大学医学部教授 三村將さん
日本うつ病学会、気分障害の治療ガイドライン
まず1種類投薬、うまくいかなければ他の薬に替えたり あるいは2種類 3種類 足していく。しかし よくならないうつ病の方というのも少なくないです。
最初の1つの薬でよくなるのが大体4割程度。いろいろ治療を変えていってもよくなる人が大体6割から7割ぐらい。3割ぐらいは 難治性うつです。
うつ病の場合には脳の中のセロトニンとかノルアドレナリンという神経の伝達物質(気分とか意欲とかと関連している)を持ち上げる作用があります。
うつ病という病気は 薬だけで治るものではありませんので、さまざまな精神療法カウンセリングのようなものとか 他の治療法と組み合わせてやっていくということになります。ある意味 ご本人が考え方 生き方を変えていくような、その人の持っている回復力をいかに生かしていくかがポイントになります。
(安藤)私 どっちかというと ポジティブタイプなんですけど それでも なるんですよね。
(三村)どちらかというと 完璧主義の方とか、ついついネガティブに物事を考えやすい方とか、自分の弱みを人に見せたくない見られたくないというような性格の方が うつ病のなりやすさ 回復のしかたにも影響すると考えられています。
うつ病の症状
精神症状:興味や喜びの喪失、意欲低下、気分の落ち込み、強い不安や焦燥感、思考力・集中力の低下、自己否定、死への思い
身体的症状:痛み(頭痛・腰痛・背中や手足の痛み・かとこりなど)、睡眠障害、食欲低下、倦怠感、便秘や下痢、耳鳴り、めまい、息苦しさ、発汗
(三村)特に注意すべき症状は興味や喜びの喪失と呼ばれるもので、意外に気付きにくく うつ病の中では最も重要な症状の一つと考えられます。例えば食欲がないとか体重が減ってきた場合 内科で診断を受けると、最近は精神科などとの連携が ずいぶん進んできてますので、つながっていくと思いますのでまず かかりつけ医に相談してください。
うつ病から回復した人に聞いてもらい楽に!過保護 過干渉 過関心を止める
砂田さんのその後を見てまいります。回復を半ば諦めていましたが、さまざまなステップを経て回復へと向かっていきます。愛犬を通じて親しくなった人から「薬を7年間飲んで よくならないのなら見直したら どうか」と言われ、悩んだ末に かかりつけ医には申し訳ないと思ったものの 薬をやめることを試します。ただし通院は続けていました。その後 康雄さんは症状の改善に結び付く情報をいろいろと調べるようになり、うつ病から回復した経験者と出会い 楽しむことを提案された。
聞いてもらってるというか 受け入れてもらってるという感じをすごく受け 行くたびに楽しんで帰ってきてました。
回復を願う くにえさんは起きる時間や寝る時間、食事の内容についても口うるさく注意していました。「過保護・過干渉・過関心は本人の自立を遅らせ 回復を遅らせる」と聞いて、よかれと思って全部やってたので かなりのショックでした。家族も変わる必要があると 初めて気が付きます。それまで くにえさんは毎晩 仕事が終わると どこにも寄らず 自宅に戻っていましたが、康雄さんには残業だと言い カフェや書店に立ち寄ってリフレッシュするようにします。
(くにえ) 以前より朗らかになって帰り、夫も楽だったと想う。私に働いてもらってるという、負い目 に似たような感情はあったと思うので、私が「疲れた」って帰ると やっぱり居心地よくなかったと思う。
康雄さんも 日常生活を変えることに取り組み 昼間に散歩することにしました。これまで 近所の目が気になり できなかった康雄さんですが、散歩することで頭の中で整理できてきた。
未来に目を向け始めたところで、アルバイトをしてみることを勧められます。しかし康雄さんはネクタイをしなければ仕事でないと考えていたのですが、相談相手には面接だけでも行けといわれた。
康雄さんは面接に向かい 社員寮の清掃のアルバイトに合格し、一歩を踏み出しました。
(砂田)信頼関係で、まず1回この人の言うとおりやってみようかなって気持ちになるんですよね。慣れない仕事でしたが契約期間の1年間を勤め上げました。汗を流して働き 金をもらう。 それがなんともいえないうれしさだった。何年ぶりかで それが 小さな自信になったかも分かんないです。
積み重ねの中で 変化が生まれ 完璧主義がなくなった。人からどう思われようが一切関係ない。 過去を引きずっていても何の得にもならない。
うつ病の発症から10年 心穏やかに過ごすことが できるようになりました。康雄さんは くにえさんと共に うつ病に苦しむ人たちとその家族のサポートを仕事として それが収入源となっています。
その活動は うつ病の回復を手助けしてくれた人たちへの恩返しだと 康雄さんは言います。10年間 うつ病に苦しんだ康雄さん。失った時間の分だけ気持ちは若くありたいといいます。
(砂田)うつ病は自分でしか治せない。自分の思考や考え方 行動 全て今までと違う方に変えなければいけない。それを変えなければ また再発する。 新しく生き直す。生き直せばストレスを受けても 対応の仕方がからってくる。
(賀来)あの砂田さんがあんな冗舌にじょうぜつ話されてる姿が すてきだと思った。
砂田さんは主治医に相談することなく薬をやめるという選択をしたけれども、その後薬物治療について勉強して 絶対に自己判断で薬をやめてはならないと 伝えていらっしゃるということです。
(三村)薬をやめるとか治療法を変える時、担当の先生が気分を害するんじゃないかとか 思いがちですが 自分の気持ちとか意見をしっかり伝えて 相談するというのが出発点ですね。
最近はよく シェア−ド・ディシジョン・メイキングという共同意思決定、先生と患者が一緒に決め 治療を進めていくことが とても大事なことだろう。うまくいかないようであれば、他の治療手段 他の医療機関ということもあるかもしれません。
(安藤)うつの状態から回復されるきっかけ、一つは お誕生日に招かれて 昔のロックンロールの音楽の中で 友達みんなとツイストとか踊った。そうしたら何か 久しぶりに心がワクワクして「青春って こんなだったな」って思い出した。あと最初の孫が生まれて幸せな気持ちのおむつ交換になり、2人目の孫が 母の足の指の形に そっくりで、母はもうこの世にいないという喪失感から この子の中に母は いるじゃない。全てが喜びに変わっていった。
(三村)安藤さんのお話の中にはいろんなヒントがあって、マイクロハピネスを積み重ねていくということが うつ病の治療にとっても重要で、お孫さんの未来というのも とても大事なところで 未来に対して少し希望が持てる 明るく考えていくことができるというのも うつ病の回復の兆候としてはすごく大事なことです。
(安藤)何かね生き直してます。私50代60代完全に20年間病と闘ってしまったので、今やりたいことやるという気持ちで満々です。あと体を動かすということ私も本当に感じました。
気持ちとか意欲というのは なかなか自然に上がってこない。むしろ体を動かす 運動をする散歩をすることで ついてくるというぐらいに 思ってたほうがいいと思う。
知行動療法で自分の考え方見直す
自分の考え方などを見直すことで気持ちを楽にしていく認知行動療法です。
20年以上 認知行動療法の研究に力を注いできた 千葉大学医学部 清水栄司教授です。
うつのような気持ちの落ち込んでいる方は ネガティブな考え方が非常に湧き起こってしまって 支配されてしまう感じになってる。
例えば うつ病の人は 友人にメールで相談をしたが返信が来ない という出来事があった場合、友人に「面倒くさいやつ」だと思われたなどネガティブな考え 認知をしがちです。そのため「悲しい」という感情が生まれ「部屋に閉じこもる」などの行動につながります。
感情は自分でどうにもならないが、認知(考え方)は自分である程度変えることができる。「自分はダメだ」という考え方を「自分はダメではない」「自分はできる」に見直します。
千葉大学では うつ病の人などを対象に認知行動カウンセリングを行っています。
40代のたかこさん(仮名)。職場での人間関係に悩み精神科で うつ病と診断され 会社を休職。カウンセリングを受けました。「身体が重くて動かなくて 会社に行きたくない状況が続いている。本当に もう家事も 何ですかね 趣味とか。何もやる気が起きない」
たかこさんは週に1回 公認心理師との50分間のセッションを 3か月間受けました。
カウンセリングは 自分の認知のゆがみを理解することから始まります。
まず ストレスを感じる出来事 それをどう捉えたかという認知 感情行動などを本人に書いてもらいます。たかこさんは 上司の自分に対する態度が他の社員と較べ冷たいと感じました。その認知は「自分とも対等に対応してほしいのに、上司は人を選んでいる」でした。
担当した公認心理師の平松洋一さんは「悲しい」という感情に注目、結びついている自動思考が必ずあるはずで それを教えてもらいたかった。
自動思考とは何かがあったときに 意識しないまま 瞬間に浮かぶ認知でネガティブな自動思考をそのまま信じ込む習慣は気持ちを沈ませ それが うつ病につながる可能性も少なくありません。たかこさんは 平松さんと改めて内面を深く見つめ「自分は能力やキャリアがないと思っている」という心理があって「自分は ダメな人間」だという自動思考が働いていると分かりました。
(平松)ストレスにさいなまれるときは 自分がどうしてこんなに苦しいのか わからない状況が結構ある。自分の自動思考がどういったもので どういった考えが浮かんでいるのか理解できるとストレスから少し距離が取れる。さらに そうした思考が生まれた背景を探るため 幼少期の体験や家族関係を見つめ直します。
(たかこ)父親が厳しかった。刃向かわないよう生きてきてしまい 自分を責める結果になってしまった。「自分がいけないんだ」「自分がおかしいんだ」と思うことで相手に嫌なことをさせずに終わる。
「自分はダメな人間だ」という自動的に湧き起こる考えが 「悲しい」という感情や「自分の主張を避ける」という 行動につながる悪循環を引き起こしていたのです。
そこで次に その認知を修正していくステップに入ります。
7つの項目を書いた紙を使い認知について 別の見方をしてみるというものです。
その中に「合理的に考える」という項目があり「相手だって悪いところはあるし私だけじゃない」「必ずしも全ての人と相性がよいわけではない」といった考え方が生まれてきました。
(たかこ)「人間なら誰でもミスをする」という考え方が 全くないわけではないが 自分が悪い方に陥ったときは全く出てこなかった。そう考えれば 自分自身楽になるんでないか。
健康的な部分が出てきて それを引き出すため さらに12の質問を投げかけました。その一つが「もし この状況に陥っているのが 家族や友人であったら 何と言ってあげたい?」という質問で、たかこさんは「悪いよう深く考えずに聞き流して切り替えよう。気にするな。自分は味方だから」と答えました。
3か月間のカウンセリングを終える頃には うつ病の症状も改善していきました。
たかこさんは自分の心を見つめ直し「自分探し みたいな感じでやってみようかな。社会に少し適応しづらい人達を何か手伝いできたらいいな」と思えるようになりました。
(安藤)すごい取り組みですね。あんなふうに導いて頂けたらば もうちょっと早くに抜け出せたかな。
(賀来)どう言われたいかといって「自分が味方だから」って その言葉すごく大きいですね。
(安藤)ああいう言葉をかけられたらば本当に気持ちが前に向きますよね。どんな人でも。
(三村)たかこさんの場合でも お友達にこういう言葉をかけるというのは、言いかえると 自分自身に対して自分がどういうふうに考えていけば 解決になっていくということだと思います。
ネガティブな人が急に ポジティブになれるわけじゃないけれども、3か月なりトレーニングしていくというのは 多くの人に有効な手法でないかと思います。
治療法
・薬物療法
・精神療法 (認知行動療法含む)
・電気刺激療法(修正型電気けいれん療法)
・磁気刺激療法(反復経頭蓋磁気刺激療法)
電気刺激療法というのは、前頭部・側頭部に電極を当てて脳に刺激を加え うつ病をよくするという。メカニズムは よく分かってないところもあるんですけれども、脳というのは 気分とか意欲とかに関連する回路が いわば ちょっと混線したような状態になってて つながりが すごく必要以上に強くなってたり 必要以上に落ちていたり 機能異常のようなものが起きています。
そういうものを電気刺激療法によって修正・正常化する働きがあると考えられてます。
通電療法は どちらかというと脳全体を刺激し 磁気刺激療法は限定して行い これは入院をしても しなくても行うことはでき、外来でも行うことができる。
4つの代表的な治療法を総合力としてどれをどう組み合わせるかは その患者さんの回復、うつ病からの よくなる力を いかに引き出すかということだと思います。
自分の人生が どういうふうに生きていくのかと 問われてる と考えてもいいと思います。決して 諦めずに いろいろな自分の中の力 あるいは周りの力をうまく生かして 引き出して 回復につなげていって頂きたい。
(安藤)私は あんまり人にも相談しないで うその自分を演じて隠し通してきてしまったので 約20年という ものすごい年月がかかってしまったと思う。誰でも なりうる病なので「私 何か変なの」って 言ってしまったほうがいいかもしれないです。心配は要らないので 人生本当にいくらでも生き直しできますから すぐ誰かに相談してください。
▽まとめ&感想
「うつ病」こういった話を聞くのは初めてで 皆様 長い間 とても苦労されているのですね。知っていれば これから何か役立つことがあればと思います。