あしたも晴れ!人生レシピ★充実!二刀流で輝く▽こんな話

Eテレ 2024.5.24
僧侶と精神科医を両立している川野泰周さん。俳優のいとうまい子さんのもう一つの顔 研究者。家業の運送業を継ぎながら 音楽活動を続けている女性。二刀流を上手にこなすヒントを伺う。

【ゲスト】いとうまい子 【講師】林香寺住職・精神科医 川野泰周
【司会】賀来千香子,芳賀 健太郎【語り】堀内賢雄

僧侶と精神科医を両立している川野泰周さん

横浜市にある臨済宗建長寺派 林香寺 室町時代に創建された由緒ある寺の19代目の住職 川野泰周(たいしゅう)さんはです。仏教と医学の側面から心の整え方を研究 実践しています。
川野さんの一日は朝の掃除から始まります。掃除は自分の心を洗い清めると教えられてきたので大切にしています。広い本堂のごみを取り除き、窓の桟の細かいホコリも上から1往復半ずつ拭く修行時代に習った拭き方です。無心に掃除をすることは 日々の悩みなどから解放される時間になるといいます。
月に一度 一般の人に向けて座禅会を開いています。参加者は坐蒲と呼ばれる座禅用の座布団に向き合って座ります。川野さん自身が場を清め準備します。これも自身にとってマインドフルな時間です。
本堂で座禅が始まりました。座る時の姿勢、足は結跏趺坐という組み方。あぐらなど負担の少ない方法でも イスでも大丈夫。背筋をしっかり伸ばすため 両手を上げて手を落とした状態を維持します。手は右手の上に左手をのせて親指を軽くくっつけます。
5分間座禅に集中する時間。初心者におすすめは「数息観」という呼吸法。ゆっくり呼吸をしたあと回数を頭の中で数え それを繰り返します。意識を呼吸に集中します。呼吸が乱れたり雑念が浮かんだりしたら一から数え直します。目線は少し先の畳を見ます。目を閉じると雑念が浮かびやすくなるので うっすらと開けます。集中が途切れたと感じたら 手を合わせ警策と呼ばれる棒で背中をたたいてもらい心をリセットします。

川野さんは週に2日決まって出かける所があるといいます。向かった先は 医師として勤務するクリニックです。住職である一方で 精神科医 心療内科医として医に従事する川野さん。主に扱っているのはストレスと呼吸や睡眠の関係です。
川野さんは僧侶になる前、勤務医として働いていました。慌ただしく診療に追われ 頑張ってもいい結果につながらないこともあって 心を整える余裕はありませんでした。
その後 臨済宗建長寺で3年半の修行 心を整えるすべを身につけたといいます。僧侶になるため たく鉢や座禅のほかに掃除などの修行をします。僧侶として行っている座禅会でも 医師としての知識が役立っていると川野さんは言います。

(川野)あんまり 二刀流という意識は私自身 ありませんで 健やかに暮らしていくであるとか 心を少し軽やかに毎日を生き生きと暮らしていくために 何ができるかと考えた時に 僧侶と精神科医というお仕事の違いを感じずに 同じものとして取り組んでいるような気持ちがしてるんですよね。
(いとう)すばらしいですよね。実家が こういうご実家で 歩むべくして歩んできたと感じました。

(川野)これから行う行為に対して納得感を持ってやってみたいという方も 近年は増えているのかなと思って。私は マインドフルネス(今ここでの体験に 丁寧に心を向け あるがままに受け入れる心の状態)と呼んでいます。
この「めい想法」が どんなふうに心や脳に作用するか 分かってきてることを説明させて頂く。ただ あまりにも効果を手に入れたいと思って執着してしまうと 逆に座禅にならなくなっちゃうので、座禅が始まったら 座禅をすることだけに意識を向けてくださいと必ず付け加えてる。

(賀来)ご自身の心の切り替えはどうなさっていらっしゃいますか?
ネクタイを締めて診療に行くことで、私の出身大学の大学病院の実習の時から患者さんと会う時には 必ずネクタイと白衣をしていきましょうと 教えて頂いて、それを守っています。切り替えることによって1回1回けじめがついていくので 心や脳も疲れにくいのが感じられるんですよね。

(いとう)私は脳の動きから学んだんですよ。一点に集中すると一つが もう そこだけが集中して動くようになるというのを 聞いてから これは すごくいいことなんじゃないかなって。

(川野)切り替える時のコツ一旦緩めることなんです。一生懸命 作業をしている時は緊張感があったり、脳の中で アドレナリンやドーパミンが出ていたり 結構 脳が疲れる 側に消耗しやすいんですね。だから緩めることが大事なんですけれども、緩もうとか安らごうと思っても緩められないのが 私たち人間の常なるものです。逆に一旦 緊張させることによって その反動で緩めるというのが私が日頃から勧めて 患者様におすすめをしている筋弛緩という筋肉を緩めるというワークなんです。

まっすぐ 両手を上にあげて、それを自分の目でまっすぐあがっていることを確認します。そしたら顔だけ正面に戻して 手をストンと落とす
そうすると これで もう腰が軽く伸びて整った姿勢になります。
息を軽く吸って息を止めたら手を強く握る脚にも力を入れて目もギュッとつぶって、123 と声を出さずに数え・放す。これだけなんですね。
緊張からのギャップによって弛緩していく。 緩んでいく。

研究者でもある いとうまい子さん

1980年代に歌手デビュー、俳優として活躍中のいとうまい子さんは、研究者の顔もお持ちです。その後 40年以上芸能界で活躍してきました。きっかけは 芸能生活25周年を過ぎたころ、社会に対して何か恩返しがしたいと考えるようになりましたが、できることが思い浮かばず、大学に行けば、その土台が見つかるかもと思い入った。
(18歳) 芸能界デビュー、タレントとして活躍
(45歳) 早稲田大学人間科学部eスクール入学(予防医学)
(49歳) 高齢者のスクワット支援ロボット「ロコピョン」を企業と共同開発
(50歳)基礎老化学を専攻
(58歳) カロリー制限模倣物質の探索
ロコピョン高齢者のスクワットを支援するロボットです。高齢者というのは ロコモティブシンドローム(筋肉や関節の機能が低下した状態)になる可能性が大きい。だけど お医者さんに言われても 自分で運動すること なかなか されないので じゃあ自宅に置いて 一緒にスクワットしてくれる子を 開発したらいいんじゃないかなと思って開発したんです。
実際 のロコピョンのVTR(決まった時間にかけ声を出して うさぎがスクワットしてくれました)
うちの父ががんを患いまして どんどんどんどん下肢筋力 足腰の筋力が弱って 歩けなくなって 寝たきりに。自分の筋力だけは いつまでも ためておかないと、人生最期の時まで自分の脚で歩けないなと実感しまして、高齢者の方が いつまでも健康で若々しくいられるようなロボットにしたいなと思いました。
(川野)本当に仏教の言葉で「利他」の方だなと思いますね。 感謝を形にするというのにも とてもエネルギーが要ると思います。ご自分の持っている何か知識や学んだことで、世の中に還元できないかと思って、それを実際に一歩 踏み出す行動力とクリエーティビティー・創造的思考をお持ちだったからできることだと思います。この時期から学校に行くと考えたらとても大変だろうなと、すぐに イメージできるんですが、知らないものに飛び込むというのも また心の勢いですよね。

そして今は カロリー制限模倣物質の探索をされているということですが これは どういった研究なんでしょうか?
(いとう)人は健康寿命が長いほうがいいじゃないですか。寿命が長くても健康寿命が短かったらつらいですよね。健康寿命を長くするためにはカロリー制限が大事だと 言われておりまして、ある食品の中に化合物で 摂取すると細胞がカロリー摂取をしているのに あれ? カロリー制限してるんじゃない?って勘違いさせる物質があるんです。その成分が入ってる食品を探してる。でも そんなに簡単に見つからない。でも今 一つ これかな? 緩いかな? まだだめかな?と思いながらやってますけど。
(賀来)俳優業と研究者続けられるコツというのは?
(いとう)「楽しい」が一番じゃないですか。あとは何でしょう 実験やってても全然 嫌にならないので。たぶん自分が得意なことを見つけられたら すごく集中できると思うんですよ。

(川野)マインドフルネスですよね。まさに今ここに集中するという。心理検査でマインドフルネスのチェックをつけて 得点をつけるんですけども、座禅や めい想 全然 経験がないのに最初から点数が高いって人も まれに いらっしゃるんです。もう生き方が そもそもマインドフルな方かもしれないですよね。

運送会社の社長と音楽指導者を両立している女性

山口県周南市しゅうなんし三浦眞美さんは 50年以上続く運送会社の社長、もう一つの顔が音楽指導者。学校に出向くこともあれば 自宅で個人レッスンすることもあります。
三浦さんが社長を務めるのは従業員90人ほどの運送会社。タンクローリーや大型トラックなどおよそ40台を所有しています。社長としての仕事はデスクワークがメイン。社員と同じ部屋で仕事をすることで、 見渡せて 顔が判り 近づきたいと思っています。出社した時には欠かさず 社員に何気なく話しかけることにしています。会話をすることで社員の体調や心の状態に気付くといいます。

運送会社を営む父のもとで 長年 従業員として働いていました。6年前 会議室に呼ばれ社長を引き継ぐことになりました。大型トラックを運転するための免許の取得して 大型トラックの運転がどんなに大変か知りました。2年前 よき相談役でもあった父克己さんも他界 模索しながらの社長業、そんな中 三浦さんは会社を経営するうえで 感謝の気持ちを伝えることが大切だと知りました。
一方 三浦さんは音楽家としても活動しています。訪れたのは周南市に隣接する防府市 国府中学校。吹奏楽部は地域の大会などにも多く出場。練習はパートごと行っています。三浦さんの専門は打楽器でこの日は吹奏楽コンクールに向けた楽曲の練習を3人の生徒に指導していました。この学校の吹奏楽部で およそ20年にわたり指導していて 常に笑顔を欠かしません。できたところを褒めて伸ばすのが 三浦さん流の指導法。
幼い頃から楽器 特に木琴を演奏することが好きだったという三浦さん。幼稚園の頃から音楽教室に通っていました。打楽器を究めたいと武蔵野音楽大学に進学。卒業後は オーケストラに所属、ライブを行うなどプロの音楽家として活動しました。その後 運送会社が東京に支店を出したのが きっかけとなり 家業に携わるようになります。31歳で帰郷。出産を機に一時 演奏から遠ざかりましたが 知人の勧めで再開。すると指導の依頼が舞い込むようになり 20以上の学校で教えていたこともありました。指導している学校の演奏会には時間を作って行くようにしています。
ところが一度だけ 楽器を手放そうと考えたことがあったといいます。仮死状態で生まれた 息子の麗音さんは生まれた時から 知的能力と四肢に重度の障害がありました。子育てに追われる日々。音楽活動を再開するきっかけが訪れます。障害者施設から 音楽をやって欲しいみたいな話がきて、紙芝居に音楽を付けたりとか、みんなで参加できるようなことを考えたり、今は施設にいる息子さんに感謝しているといいます。そこには自分の子供がいて喜んでくれるのが感じられるからでした。
異なる2つの業種、三浦さんはこじつけて 関係あるよう 考えている。肩を張らず 頑張りすぎずこじつけること。そこには前向きに生きるヒントが隠されていました。

(いとう)いろいろな困難があったうえでも前に進むという選択をされて 全然違うお仕事をやってるんだけどいい意味で こじつけて すごく上手に 全然やっていけるタイプだったんだろうなというのは感じました。
(川野)三浦さん お若い頃はプロの音楽家として 自分自身の音楽を究めるということをやってこられた方ですよね。それがご出産を経て かけがえのない息子さんという存在との出会いを通して 今度は その息子さんのためにとか聞く人のために幸せを届ける活動として 音楽という ご自分の持っているスキルを発揮されてるというのが とても印象的でした。これ 仏教の言葉で「自利利他円満」お釈迦様が とても大事にした言葉なんですが まず自分自身を利する。自分に思いやりを向け、それから他者に思いやりを慈悲を与える。そういうものが円満な人生につながっていくことが ひしひしと心に伝わってきましたね。
(賀来)三浦さんのこじつけは優しさの二刀流三刀流みたいな感じで。生徒さんが みんな笑って あの笑顔で すばらしい方だなって思いました。
(川野)社長業と音楽家として どちらも指揮者としての振る舞いをしているとか みんな幸せでありますようにと みんなに笑顔を届け 絶やさない。そして人と関わろうとするというこういう共通点を 見いだしてらっしゃる気がして それを三浦さんなりのユーモアの言い回し方で こじつけるというふうに おっしゃってるのかなって感じましたね。

二刀流 いろんな さまざまな形があると思うんですけど どうお考えでしょうか?
(川野)いろいろな悩みを抱えて受診される患者さんですとか、お寺に座禅体験をしに来られ 悩みと向き合っている人たちと話をする中で、今 抱えているお仕事ですとか ご自身が担っている立場というものに行き詰まりや歯がゆさ うまくできないという気持ちを抱えてる方たくさん いらっしゃるんですけれども、そういう方たちに勇気を持って一歩別のことに挑戦してみましょう ということをよく提案させて頂くんですね。
その別のことというのは お仕事であっても 副業とか ご趣味であっても 地域活動の何か別の役割でもいいんですが、思い切って 今やっていることから一歩外に出て 別のことに集中して、その中で何か楽しみというのを見いだした時に、実は もともとご自身が置かれていた環境や もともと持っていた お仕事の中にも 同じ楽しみの要素があるということに気付けることがある。それを見つけることができるかどうかだと思うんです。
(いとう)みんな 二刀流か三刀流とかで生きてると思うんですよ。本当の自分と どこかに所属している学校でも会社でも。そういう意味ではみんなが あらゆる場所で 二刀流とか三刀流をやって生きてるんだなって。

▽まとめ&感想

僧侶と精神科医を両立している川野泰周さん。俳優のいとうまい子さんのもう一つの顔 研究者。家業の運送業を継ぎながら 音楽活動を続けている女性。二刀流を上手にこなすヒント!
皆さんすごいですね。仏教の言葉で「自利利他円満」覚えました。