Eテレ 2023.1.20
オンライン参加できる都内の美術館の「対話鑑賞」、この方法はビジネスや医療現場に活用される。
アートは癒やしや会話にもつながる。個展で絵購入 アーティスト本人との交流生まれる。
手軽に絵のレンタルサービスを楽しむ。ミュージアムグッズ 美術館での感動を持ち帰り人と共有
【ゲスト】平野ノラ 【講師】医師・アートコミュニケーター 和佐野有紀
【司会】賀来千香子,小澤康喬【語り】堀内賢雄
オンライン参加できる都内の美術館の「対話鑑賞」
(平野ノラ) 飾っても自分で嫌じゃないなっていう基準で絵を描いてます。
自宅から オンライン参加できる都内の美術館の「対話鑑賞」。対話鑑賞とは 同じ作品を鑑賞し対話することで作品の理解を深めようという鑑賞法です。ノラさんにもご体験頂きました。
東京 千代田区にある東京国立近代美術館。日本初の国立美術館で 19世紀末から現在に至る国内外の作品を幅広く所蔵しています。20年ほど前から対話鑑賞を導入。(対面式は整理券制、オンラインは抽選制(月1回募集)で現在は週に3日ほど開催)
オンラインのファシリテーターの細谷美宇さんです。対話鑑賞では 作者や作品名の情報は伏せて鑑賞します。感じたこと考えたことをオープンに話しシェアし他の人の発言を否定しないのがルールです。
ファシリテーターは見解を発言することはなく 参加者が素朴な興味を持って鑑賞できるように促します。参加者が自由な発言を楽しむようになったところで 作家や作品名を明かします。
作品は古賀春江(こがはるえ)の「海」。いち早くシュールレアリスムを描いた代表的な画家。作品が描かれたのは1929年 関東大震災から6年後、時代を象徴するイメージをコラージュした作品です。
対話鑑賞は互いの意見から作品の見方が広がる楽しみもあります。
古賀春江『海』1929年 東京国立近代美術館
— 美術ファン@世界の名画 (@bijutsufan) September 20, 2020
東京国立近代美術館にて「所蔵作品展 MOMATコレクション」開催中です。
2020年6月16日(火)~10月25日(日) pic.twitter.com/noyNq9thOH
次に取り上げた作品です。何の絵でしょうか? 宇宙、海の中、ミクロで目の細胞、帽子、古い風呂場
さまざまなイメージが浮かびました。細谷さんから タイトル その心を発表するよう求められました。
絵は日本人の画家 瑛九の「れいめい」でした。瑛九は昭和初期から中期に活躍し前衛的な抽象画で知られます。
きょうは、瑛九(えいきゅう、1911- 1960)の命日。当館では2016年「瑛九1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす」展を開催しました。
— 東京国立近代美術館 MOMAT (@MOMAT_museum) March 10, 2021
次会期 #MOMATコレクション展 では、《れいめい》1957年、《地球の外に》1957年、《白い丸》1958年 を展示予定です。(画像は《れいめい》1957年です。) pic.twitter.com/5hR9J4reno
(賀来)何か感じたこととか 思ったことを 伝えるだけじゃなくて 発表ってなると、自分の感じ方も明確になったり、皆さんのご意見を聞いて変化したり すごくすてきなことだなと。参加してみたくなりました。
(平野ノラ)絵をこんなに じっくり見たことなかったし、本当に1人よりいろんな見方ができて非常に いい経験をさせて頂きました。
医師でアートコミュニケーターの和佐野有紀(わさのゆき)さんです。
対話鑑賞は1980年代に ニューヨーク に近代美術館 MoMAという大きな美術館で始まった。情報がない状態で 作品と個人が向き合って 何を思ったかということを 周りと共有する。自分が思ってもみなかったことを 周りの人が言ったり、そう言われたら お互いに変化するという ダイナミックな動きが出て、そういったことが教育にとって有意義で コミュニケーションのトレーニングに使われたり 広がってきてる。
私も 有名なゴッホの「ひまわり」を見ても ゴッホの「ひまわり」見たぞ みたいな気持ちになりがちなんですけど、ふだん通り過ぎてしまう作品のうらに作家がいて 作品だけでなく背景にある 思想や世界観をフラットな状態で体験する。その感想を口にしていって、そうすると周りの人が リアクションしてくるので、互いの感性を言い合うことで 感性を伸ばしていくことを 目指して プログラムは開発されてると思います。
地方の ある程度大きな美術館は大体こういったプログラムをやってることが多い。ビジネスフィールドで社内の研修とか、 最近だと医療分野でも こういった対話型鑑賞のワークショップ、オンラインでも やりやすくなってるので増えてきていますね。
今 戦争・コロナなど いろんなことが私たちの想像を上回る速度で起こってしまってる。想定していることの範囲から逸脱することが 世の中じゅうにまん延してる。個人個人が結局大きな組織に属していたとしても、自分自身というフィルターで 世界をちゃんと見て感じて、健全な 想像力を拡げ アートが発想力や 世界を感じる力・パワーの源になっているので要請が高まっていると思います。
例えば インクルージョン(包摂 包括:性別・人種などの違いによらず 違いを尊重する社会を目指す) 今急速に 違うフィールドの人と会って話すことが起きている。そういう時に相手が理解できる・伝わる言葉を紡ぐ 対話型鑑賞への興味が高まっている。
(賀来)アートって すごいツールですね。アートだったら「それは間違いだよ」とは なかなかいえない。
個展で絵購入 アーティスト本人との交流生まれる
家の中のアート 部屋の雰囲気が変わるだけでなくて癒やしや会話にもつながるそうです。
社団法人 アートのある暮らし協会では 都内 中央区で 9年前から初心者向けにアートの選び方・飾り方などをアートセミナーで伝えています。
受講者の林泰子は 絵画を飾るようになり 幸せを感じるようになったそうです。
子どもは独立し夫と2人暮らし。インテリア関係の仕事をしているため 仕事に生かせるのではと アートを取り入れました。
コレクションを見せて頂きました。玄関から階段を上がった場所にある一番大きな絵は 船の上にのった お花畑。空間を華やかに明るくしてくれるのが魅力だそうです。
絵を買い始めて足を運ぶようになったのが アーティストの個展です。
テレビの上に飾っているのは 深沢尚宏さんの作品です。本人と話をし 作品づくりへの ひたむきさに感動しました。優しく繊細な筆遣いで描かれた花や鳥。淡い色彩も心が穏やかになると気に入っています。
こちらはメキシコ人作家 IT`s A LIVING の個展で購入したものです。華やかなピンクの色に引かれました。グラフィカル調の表現が特徴です。
林さんは絵の購入後もアーティストとのやり取りを楽しんでいます。林さんは子どもの成長の節目にも絵を購入しています。
手軽に絵のレンタルサービスを楽しむ
絵を購入ではなく レンタルのサービスで楽しんでいる方もいます。
1年前から サービスを利用している本田七重さん。夫と子どもの5人家族です。以前から部屋に絵を飾りたいと思っていましたが 少し不安があったそうです。
引っ越しをきっかけに 絵のレンタルを始め これまで5点レンタルしました。
サービスを提供しているのは京都 下京区のベンチャー企業で、1ヶ月 2200円から借りることができ 気に入れば買い取ることも可能です。レンタルできるのは主に若手の作品。レンタル料などの一部はアーティストに支払われます。
絵を選ぶ時は次男と長女と一緒に カタログから それぞれが気に入ったものを選んで決めます。
子供達は意外な言葉を使ったり 私の知らない世界観で選んでいました。本田さんが意外に思ったのは次男が かつて選んだ「夢を叶かなえる船」という絵でした。息子は激しい性格で はっきりした色合いが好きだと思っていたが ふわっとした絵を選んでびっくりしたそうです。
今 飾っているのが愛らしい猫の絵。本田さんは猫好きですが アレルギーがあり この絵で猫を飼っている気持ちになれると選んだそうです。絵を飾った様子をSNSにアップしアーティストとの交流も楽しんでいます。
アーティストにとっても 利用者からの感想は励みになるそうです。
(平野ノラ)1枚の絵を飾る過程が あんなに楽しくて。私 レンタルというのも ちょっと知らなかったんですけど、若手のアーティストさんにとってもいいですし みんなにとっていいシステムですよね。
(賀来)好みの作品とかね 自分のお部屋に合うすてきな作品を見つけるコツというのはあります。
(和佐野) これは興味がないとか よく分かんないなと あまり 門前払いしてしまわない。そうすると自分にとって こういったものが必要なのかなとか 興味みたいなものが湧くので。
(賀来)なるべくたくさんのアートに触れたり 会ってみる 見てみるっておっしゃったんですけど、なかなか個展に行くとか ギャラリーに ちょっと入りにくい感じもあるんですけど。
(和佐野)本当に気軽に見に行くことは 悪いことじゃないと思います。ギャラリーは 出来たての作品が並んでいることが多く時流を捕らえている。コロナも 戦争のことであったり オリンピックのことであったり いろいろなことを見たうえで、同じ この時代を生きてる人が 作ってるものが ギャラリーでは出てくるので すごく 最先端な内容になっている。
ギャラリストさんだったり アーティストさんがそこに いらっしゃるので直接 聞いてみたりすると とても意外だったり 面白かったり 出会いにつながることがあると思います。アーティストって面白いので返してくるようでいて 斜め上に行くみたいな 思いもかけない回答が返ってくることがある。
(平野ノラ)私もギャラリーを見に行くのがすごく好きで、やっぱり刺激をすごく もらいますし、本当に好きなギャラリーは何回も足を運んで。そうすると「あれ? 買う予定じゃなかったのに」というものを持ち帰ったりとかして。
今は廊下に飾ってあるんですけど、でも たくさん描いても 飾っておこうって思える絵はやっぱり少ないんです。
絵を始めたきっかけは 1人暮らしを初めてした時に 赤とかゴールドとか 自分の部屋のテーマカラーがあったんです。 その部屋に差し色で ちょっと絵を欲しかったんですけど、自分で描いたほうが早いわと思って自分で描いたんです。
この絵は描いてて 知り合いの方が「何か獅子みたいだね」といったので、うそ?と思って ひっくり返したら本当に獅子みたいだったので ちょっと獅子っぽく寄せて描いたんですね。
これは自画像で お部屋の壁に飾ってあります。この時何か絶好調だったんですよ。
(和佐野)脳みそ開いてパンってなってますよね。
ミュージアムグッズ 美術館での感動を持ち帰り 人と共有
もっと身近に 手軽にアートを取り入れたいという 願望に応えてくれる ミュージアムグッズです。
「ミュージアムグッズ愛好家」の大澤夏美さんは ミュージアムグッズ好きが高じて これまで3冊の本を出版。グッズの魅力や楽しみ方を紹介しています。ミュージアムショップも美術館の展示品の一部
と考えながら見ていくと また違った楽しみがあるといいます。
2020年にリニューアルした 都内中央区にあるアーティゾン美術館。実業家 石橋正二郎が収集した美術品を中心に展示しています。主に印象派の西洋近代絵画や日本の近代美術など 絵画から彫刻までおよそ3000点を所蔵しています。クロード・モネ《睡蓮》、藤島武二《黒扇》などコレクションがあります。
ミュージアムショップを楽しむにはまず展覧会から。自分中心で解釈すると いわゆる芸術作品もぐっと身近に楽しくなるそうです。
印象派の画家 ピエール=オーギュスト・ルノワール 《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》を見て 大澤さんは少女の表情に注目しました。「ポーズもお茶目・絵を描いてもらえると聞いて「ふふん」と威張っている感じ。うちの娘だったらさわっていられるかな」
メアリー・カサット 《娘に読み聞かせるオーガスタ》を見て「つまんねーなって顔、何を読み聞かせているのかな?」
大澤流の鑑賞術 その1は自分中心で見ること。その2どんなグッズになるかを想像すること。
ヴァシリー・カンディンスキー 《自らが輝く》 この抽象画は「Tシャツやバッグ ファッショングッズで持ち歩くと 「何それ」といわれそう。会話のきっかけになる。
パウル・クレー 《島》点描が印象的な この抽象画は「特定のモチーフがない分 シーンを選ばない日常品になる」と想像しました。
ここからが本題。ミュージアムショップに向かいます。想像したとおり 抽象画はモノトーンのTシャツやバッグに。そして シーンを問わないと思った抽象画は折り畳み傘に。
この美術館では学芸員やデザイナーなどがチームとなって ミュージアムグッズの開発をしています。
クリエイティブチームの秋本さんは「全て試作し 色など細かな調整をして商品化しています。展覧会の余韻・感動を持ち帰れます」
ミュージアムショップは展示の延長、展示室と地続きなのでショップでも新しい発見があってうれしい。
これまで1000点以上のグッズを買い集めた大澤さんのお気に入りを少しご紹介します。
所蔵品をモチーフにデザインした 福岡市美術館の「福かぶり猫」。袋をかぶっているのは「福をかぶる」と「福岡ぶる」をかけたもの。猫は福岡の伝統的工芸品「博多人形」の技法で作られています。美術館と地元伝統工芸とのコラボ。大澤さんの胸キュンポイントなんだそうです。
2つ目は夏目漱石の書斎跡地にある新宿区立漱石山房記念館のメモ帳。文字は活字を組み並べて印刷する昔ながらの活版印刷です。胸キュンポイントは文字の大きさや振りがなまでも初版本の再現に こだわったマニアックぶり。ミュージアムグッズは美術館での感動を持ち帰り それを人と共有できるのも魅力です。ミュージアムグッズをふだんつかったり プレゼントしたりすると 思い出がキラキラしたままでいられ 人に伝えられる。
(平野ノラ)私もいろいろ買って 絶対買うのが ポストカードです。 若いアーティストさん まだ世に出てない方の作品もたくさんあるし。
(賀来)私はクリアファイル、マスクケースにもなるので。もしかしたら いつも携帯してたいと思うのかもしれません。
(和佐野)彼女のミュージアムグッズというか 彼女のスタンスが すごく面白くてすてきだなと思って見てました。これがどういうグッズになるかと想像しながらアートを見るって 自由な見方ですごい新しい見方を開発されてて すごくいいなって思いました。
私の好きなグッズは図録で電磁の内容がギュッと詰まっていてお得です。いわゆる作品集の作家さんのハードカバーのものを買うと 結構高かったりするんですけど、図録だとすごく まとまった形で 批評家の解説文だったり キュレーターの思いだったりとか アーティストの解説がありながら 結構ギュッて詰まってるものが見られる。
(平野ノラ)ポストカード 季節問わず人に送るんですけど お便り書いたりとか 差し入れとかちょっとした手土産の時にそのポストカードに書いてしのばせてお渡ししますね。
(和佐野)私も同じように 人に共有したいなとかっていう時だったり、自分がやってるワークショップの時に 絵葉書をまとめてセットみたいにして 自分だけの展覧会を作ってみてくださいとすると、一人の子は 横に ぶわ〜って 背が自分の届く範囲のとこにピンで貼ってった。
もう一人の子は上から貼りたいというんで 私が上のほうを手伝って 貼ったんです。
(和佐野)自分自身を知ることで 初めて他者を理解することができるようになる気がするので 物事の見方をいろんな切り口から どれも1つづつの正解だと認められるようになる。やさしくなれる。イライラしているところが平和になる。世界が美しく見える。身近に アートを置くことによってそういった効果がアートにはあるかなって思います。
(平野ノラ)アートというのは正解が やっぱり ないので、自分の中ですごい価値をさらに見いだしてそしてすごく特別感・幸福感を感じる。私はアートを通じて 見に行ったりとか 作り出したりとか 触れたりすると感じられるので ずっとアートに触れていたいなっていう気がしてます。
(小澤)他者への理解って 今すごく大事な時代なんじゃないかなって感じますけれども、それは実は でも難しいことで 想像は巡らせるけども 思い込まないとか そういったことを体感させてくれるのがアートなんだなと 今日感じまして 是非身近に触れる機会を持って 自分自身もその理解を深めるということを 続けていきたいなと思いました。
今日お話伺ってると もっと自由でもっと広がっていいんだなということを 感じられたということ自体がアートの力のような気がしますよね。
▽まとめ&感想
アート 今まではそんな心の余裕持てずに 美術館にもいけないし 買えないと思っていましたが オンラインとかレンタルとかあるんですね。何よりも 作品の良さわからないと思っていましたが 自分が見たままでいいんだと安心しました。