あしたも晴れ!人生レシピ★人の痛みに寄り添って▽こんな話

Eテレ 2024.6
「人に寄り添う」という生き方。終末期を迎えた高齢者にハープを奏でる女性。「いのちの電話」ただ聴くことで 救われる 関心を持つことで通じ合える。3年前に大阪で起きた 心療内科クリニックへの放火事件 その後。人のために祈ることも大事。

【ゲスト】はるな愛、精神科医 名越康文
【司会】賀来千香子,芳賀 健太郎【語り】堀内賢雄

終末期を迎えた高齢者にハープを奏でる女性


東京 清瀬市にある療養型の病院で週に2回ハープを使ったボランティアを行っている 坂本千歳さん(53歳)に 病院側から ハープを弾いてもらいたい人の名前が伝えられます。
がんを患い 去年からこの病院で療養しているキューレさんに 子守歌や聖歌などをハープで奏でます。これはパストラル・ハープと呼ばれるもので、終末期にある人や心身に痛みのある人に ハープの音色と歌声による祈りを届け寄り添うというものです。
(坂本)「演奏とか パフォーマンスとかそういう音楽の活動ではなく この患者さん苦しそうだから 楽にしてあげようとかいうことではなくて、ひたすら 患者さんの 今のありのままの姿におつきあいさせて頂く。」
この病院では スピリチュアルケアとして6年前から取り入れています。
坂本さんは 八王子にあるキリスト教の教会で牧師をしています。大学時代 聖書の言葉に感銘を受け 30歳で牧師となりました。8年前 北海道の教会にいた時 信徒の子どもが自殺するという出来事が起きます。
(坂本)両親は子供さんが亡くなって 礼拝に来ることができなかった。友達が声をかけたりする慰めの言葉が全部、自分たちが何か息子さんを理解できなかったから 息子さんが死んでしまったんじゃないかとか グサグサと刺さってくるっていう。母親が「今この音楽だけ聴けるのよ」 とハーブのCDを持ってきた。
そんな時 苦しむ人のそばに寄り添い「言葉によらないで寄りそう」祈りのたて琴を弾く 宣教師 キャロル・サックさんが行っている講座の案内が届きます。キャロルさんは 2006年から このハープによる寄り添いを日本で始め講座を開いて指導、身寄りのない終末期にある人たちが過ごす ホスピスケア施設などで行ってきました。
運命を感じた坂本さんは 北海道から講座が開かれている東京に引っ越し2年かけて学びました。弦楽器を弾くのは初めてで 自宅で毎日のように6時間に及ぶ練習を繰り返し 30曲ほど習得しました。

がんの末期の女性にハープを奏で、亡くなったあと 届いた手紙に 「家族みんなで一緒に集まっていたあの時間がなかったら 悲しみから立ち直れていないと思う」という 家族の言葉があった。
去年 脳梗塞になり まひや意識障害などの後遺症が残る中村ユリさんに3人の子どもたちにも一緒にハープを聴いてもらうことになり、相手の呼吸を見ながら静かに「慈しみと愛のあるところに神も共にいる」という聖歌の演奏を始めます。坂本さんは演奏する中でその場にいる人と 深いところで つながるような感覚になるといいます。

(賀来)胸の辺りを見てその呼吸でハープを奏でる。今のその方のありのままを受け入れるという坂本さんのスタンスだからこその 生きたハープの音色が 柔らかですごく何か心にしみましたね。
ゲストは はるな愛さん精神科医の名越康文さんです。
(名越)心の問題とか心理学 まだ200年も たってないような学問じゃないですか。でも音楽というのは もう何万年と恐らくは続いてる。その中で人間は やるせない気持ちとか 共有したい気持ちをみんなで一体になってきたと思うんですね。だから音楽というのは癒やしそのもの
若い頃に対談した藝大教授が「あらゆる芸術は治療になっていく」って言ったんですよ。
(賀来)ご家族も とても安心されたようなお顔をされて すごく印象的だったんですけど、ご本人だけじゃなくて周りの方に どんな効果があると思われますか?
(名越)だんだんと体が動かなくなったり 言葉がうまくコミュニケーションをとれなくなると 自分は何も やってあげれないという 無力感が出てくると思うんです。そういう時に ああいう音で全体が包まれると つながってる感じがして 大きな癒やしになるというか、共有してるという実感が起こってくると思います。
(芳賀)私たちに何か できることというのは? ハープをするというのも難しいですし。
(名越)手をさすってあげるとか、そういうことって何かすごくいいんじゃないんですか。相手に触れることは大事です。

「いのちの電話」ただ聴くことで 救われる 関心を持つことで通じ合える

1971年にできた 苦しみや悩みを抱えている人の心の声に耳を傾けるいのちの電話」 全国に50の支部があって 6000人近い相談員が活動しています。
埼玉のこちらの事務所では24時間体制で 1日 十数名のスタッフが交代で対応にあたっています。相談件数は1日70件近くに及びます。中には「 死にたい。消えてなくなりたい。何もかもイヤになった。」など深刻な声も少なくないといいます。電話を受けるのはボランティアの相談員。
そのうちの一人 みどりさんは 25年以上電話の声に耳を傾けてきました。
いのちの電話にかけてくる人ってやっぱり いろんな意味で孤独だったり寂しかったり、予備軍の人が まだ電話をかける力がある方ですので そうなってきた時に ちょっとでもそういうふうにして一緒に… 共にいるという感じ」
みどりさんが相談員に応募したのは 40代の頃。相談員になるには 研修を一年以上受ける必要があります。精神医学 自殺問題などを学びさらに電話をかけてくる人などを 自分たちで演じるロールプレイングも行い 人の話を共感を持って聴くことの大切さなどを学びます。
みどりさんも研修で学んだことを実践、相手に質問をしたり励ましたりせず ただ その人が感じている気持ちとともにいること。それを心がけていると 会話していくうちに 相手の変化を感じることがあるといいます。自分の力で上を向こうとする言葉がでて来る聴くという行為の持つ力に気付いた時は ちょっとうれしかったです。
見知らぬ人と声でつながる「いのちの電話」。このボランティアを長く続けられているのは 一期一会の出会いの中で確かに お互いに通じ合う瞬間を感じるからだといいます。

(賀来)私からしてみたら本当に大変なことされてると思うんですけど、かけ手から もらえるものがあるというお言葉が出るということが すごいですよね。
(名越)自分の問題とか 自分が今言いたいと思うことに 相手が関心を持ってくれてると。その時に 短絡的な言葉かもしれないけど 1人じゃないっていうか…。1人で迷ってると本当不安で 関心を持ってもらってる その時に何かものすごく大きな変化が その人の心に起こるような気はしました。

(賀来)悩みや苦しんでいらっしゃるお話を聴くということは こちら側も しんどいんじゃないかと思ってしまう?
(名越)一つは僕は無理をしない。自分がどれだけのキャパシティーを持ってるのか測って しんどくなってくることってありますよね。しかも うまく共感できなかったり うまく理解できないと よけいに自分でも上滑りになってくる。そういう時ほど疲れてくるじゃないですか。それは もう往々にしてあることで全然悪いことじゃないんですけど。 自分の心に余裕がある時、ちょっと もう一呼吸聴いてみようとか あるいは相手に「それってどういう状況であったの?」とか、「どこが一番苦しかったのか もうちょっと教えて」とかね。柔らかい関心を持ち続けて話を聴くということが何か それは もうプロだって一緒だと思うんですよ。

3年前に大阪で起きた 心療内科クリニックへの放火事件 その後

2021年12月 大阪市内で起きた心療内科クリニックへの放火事件、火をつけた容疑者は死亡、そして クリニックの院長やスタッフ患者など 26人が命を落としました。亡くなった院長の西澤弘太郎、心の病を抱えた人の助けになりたいと復職などのサポートにも力を入れていました。
2年前 亡くなった西澤さんの妹伸子さんを取材しました。伸子さん自身は 兄が亡くなったことや容疑者について考えても 何も感情が浮かんでこず どこか まだ現実とは思えない状態でした。
大きく心を揺さぶられたのは インターネット上に書かれた元患者の思いに触れた時。気がかりだったのは兄の患者のその後、そこで元患者が集まるオンライン交流会に参加しました。中には 一人でいると妄想にとらわれてしまう人や、行き場がなくなれば自分も容疑者のようになってしまう可能性があると話す人もいました。
そして去年 人が気軽に立ち寄れる居場所 「よすがのところ」を始めました。まずは自分の知人や友人に声をかけました。伸子さんは たわいもない話から始まる会話の中で 本人の心を占めている心配事などに注意深く耳を傾けます。まず本人の気持ちが楽になればという思いで向き合っています。
仏教を学ぶことを始めます。僧侶の本に 仏様が本当に困って何か泣いてる人に ただ そばにいるだけで いいんですよみたいなことを書いてたんです。何か それだけなら私もできるなと思ったんです。
今年から 月に2回 元受刑者や依存症などの人をサポートしている 奈良 大和高田市の施設を訪ねています。(施設責任者 森田宏さん) この施設では現在20人が共同生活を送っています。伸子さんが話し相手になりたいと思った理由があります。それは クリニック放火事件の容疑者が再犯だったこと。
この日 話しに来たのは去年の10月に入所したボンさん。傷害罪で服役した経験があります。
次第に自分の苦しみの原因になっている出来事を打ち明け始めました。
(ボン)母親が変な形で亡くなって、命日が来た時に しんどくなったら どうしようかなとか。しんどくなって犯罪を犯したり、お酒を飲んだりとかしてもう ぐちゃぐちゃになって。
(伸子)お母様が亡くなられたことに対して 自分の整理がついてないんだと思うんですね 何か納得とかしてないだろうし…。
(ボン)そうですね できてないですね。しんどいですね。
(伸子)正直 兄が亡くなったってことは悲しいんですけども、追い詰めていって考えたところで 兄が戻ってきてくれない。めちゃくちゃ恨みながら つらい 悲しみの中で生きていくのか? いろいろ つらかったし納得もいってないけど、でも俺には俺の道がある。俺の人生は俺が作っていくんやっていうのを 思い出していくことってすごく大事なんですよね。
きっかけが友達なんか仲間なのかであれば それに頼むとか。私でもいいですよ 全然。言ってもらったらそん時 お話もできるし。そうやって みんな支え合って生きていけばいいと思うんです。
1時間にわたって続いた対話。ボンさんは自分の抱えているものを そのまま受け止めてもらえたように感じたようです。
伸子さんが ここまでするようになったのは、数年前に脳の腫瘍を取る手術を受けられたんですね。その時に死ぬかもしれない、あした動けなくなるかもしれないから 今いろいろなことを動いて活動をしよう という思いでやってらっしゃるということですね。
(賀来)つらい経験をなさった伸子さんだからこそできる使命というか。ボンさんの顔が変わられましたよね。
(名越)急激に日本人の心は孤独になっていって、すごい あえいでいる。さまざまなきっかけ、さまざまな場所を僕たちは本当に作らないといけないんじゃないかなと 改めて考えさせられました。
(はるな)子ども食堂を 月1回 経営する店で運営してるのは、自分のできる範囲なんですけど。私も ちっちゃい時に居場所がなかった一人だったんで、そういう場所が もしあったらまた変わったかなって思える 場所になったらなと思ってやってます。ボードゲーム屋さんも 一緒に何かやりたいですって言ってくださったり そこでいる皆さんも つながっていく場所になってるんですよ。

(名越)例えば あの人 今 苦労してるみたいだと思ったら ちょっとでも楽に今日はなりますようにとかね。寝る時に今日 つらい話を聴いて十分に応えられなかったけど、今日ゆっくり眠れますようにって祈るということって すごく実は大事なことだと思ってるんです。自分を否定する気持ちから ちょっと解放される。
祈ってみる。これだったら きっかけがなくてもあるいは勇気がなくても まず できるじゃないですか。

▽まとめ&感想

「人に痛みに寄り添う」という活動。とてもできそうにありませんが、ただ聴くことで 救われる。 関心を持つことで通じ合える。人のために祈ることも大事。この辺を心がけたいなと思います。